くらた内科クリニック

横浜市 鶴見区 内科 循環器科 呼吸器科 アレルギー科 くらた内科クリニック

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ドクター本多のコラム

コラムNo.7

嵐の中の救命登山(2)

桜満開のこの頃です。人類が去ってしまっても、このように花は咲き続けるのでしょうね。

さて半世紀前も人里には、春、桜が咲いておりました。
しかし、ここは前回の続き、夏の嵐の夜、一ノ越山荘の入り口の縁台・・・。
ゆっくりお茶を飲ませてくれるのかと思ったら、飲み終わらないうちにトランシーバーが鳴り響き「ただいま出発しまーす」と強力(ごうりき)さんが言う。重装備の強力さんが5人、ものものしく我々を囲む。

「さあ先生方、ここからが本番です。大丈夫、気を失っても山頂にはお届けしますよ!」と笑う。

さあ行こう!突風が吹く!雨粒も目玉ほどの大きさがありそうだ。横殴りにぶつかってくるこの雨は、やがて足元から吹き上げてくるものに変わるのだ。

坂は上ったことがある方はご存知と思うけれど、短くジグザグに行き来する方法でしか登れない。それほどの急坂だ。落石は小粒のものならいつも落石している。まして暴風である。石が下から舞い上がって顔を打つ。日中晴れていて登っても、ざらめ石の流れるような落石はいつもある。

1時間登ったほどで眩暈がした。すると腰が軽く浮いた。先生、眠ったらいかんです、しっかりしててください、このままでも登れますよ。まるで昨今のロボットスーツのようだ。

いやいや、と意地を張る。自分で登ります!と男を見せたが、息切れが激しくなっていった。

強力さんらは、速度を緩めながら我々の能力に合わせてくれた。我々は(山岳部以外のふたりだけだが)、ゼーゼー言っているのに、彼らは普通に呼吸しているのである。さすがは立山の男たちだ。

いつまで続くのかこの修羅道は、と思った頃、道が平らになり神社の裏口から入所した。

神主さんが出てきて、お疲れ様ですと慰労のことばをかけてくれた。お茶をくださったが、まずは先生、その酸素ボンベを先に使ってください。顔が真っ青ですよ、と笑う。

私は、所長らしく、患者さんは?と聞くと・・・
神主さんは、いまは、先生の方が具合い悪そうですよ。本人は微熱でも食欲はあり、よく休んでいます。

なんじゃ?そういうことか。

神主さんは続ける。あした強力さんに背負ってもらって下山させますから、先生方もこれでゆっくり休んでください。

え?一応診察を。。。

おおそうじゃそうじゃ、そうであった、後でお連れします。

ふーむ、どうやら真夜中に診療班を呼び、医療隊が来たということが大事らしい、と納得した。一大イベントだったのだ。これは昨年の不幸な事件への反省からきたものだった。

次の日も豪雨の中だったが元気な患者は布団にくるまれてポンチョを被され、強力さんに軽々背負われて下山していった。

我々は道化を演じたようだったが、それなりにひと仕事終えた満足感で下山し、途中から地獄谷に道を変え、皆と別れた。

診療所からは、窓から顔を出した仲間たちが「ヨッホホーーイ」と歓迎と慰労の声を叫んでくれていた。

ちなみに雄山(おやま)の神社にはトイレがあるが、このトイレがすばらしい!
いったい何年前からあるのかわからないが、崖の上に突き出した空中トイレであり、下を覗くと遥か絶壁の下の森が見える。

ここで用を足すのだが、小のときは霧となって消えてゆくが、大の場合はゆっくりと深い森に落ちて行くのが見送れる。

問題はそのあと。紙で拭いた落とし紙が、谷の吹き上げ風によって落ちないのだ。落ちないどころかトイレの中を舞い上がり舞い狂う。これをどうするか、捕まえるのもちょっと汚い。慣れてしまえば水を持って行って濡らして捨てれば舞うことはないのだが、初めての時はたいてい絶叫するのである。ともかく、足をふみはずしてその身を糞とおなじく森に落とさないことだ。ここの神社でトイレを経験した者だけがわかるスリルである。

こうして山の診療班は、さまざまな体験とともに夏を終えるのである。