くらた内科クリニック

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ドクター本多のコラム

コラムNo.11

洋上救急の記 (3)見たことのない海原

 僕は気分良く船長の隣で、所謂コクピットの180度眺望の風景を感動しながら見ていた。
先ほど乗船した「D突堤」などはもう遥か後方にあり、どこだかわからない。が、こんなに広い四方が海でもまだ東京湾の中なのである。横浜の山下公園から見える海などは内海のまたさらに内海なのだとつくづく知る。

 そしてこの東京湾には、実は足の踏み場もないほど(海だと何と表現するのだろう?)多くの船舶、貨物船、コンテナ船、タンカが停泊して(錨を降ろして)いる。船籍というのか?掲げている国旗もたくさんあり見たことの無いものだらけだ。これは我々の知らない海の男たちが働く異世界のようだ!まったく異なる人生のなんと多い事か!

 我が「瑞穂(みずほ)」は汽笛を鳴らし、公務であることを他船に知らせ、威圧しながらスピードをだんだん上げて行く。慌てて道を開ける航行船がいる一方、すぐ後ろを斜めに横切る中国船がいたりする。後方を監視していた航海士さんが「まったくぅ!ルールを知らねぇなぁ」と、つぶやく。船舶間の距離を言っているらしい。海の交通ルールは僕もこの後、4級船舶試験で一時期勉強したが、もう忘れてしまった。瑞穂に乗ったときは、こんなに往来の多い船舶同士がよく衝突しないものだと感心していた。

フロントガラス手前に大型双眼鏡があったので
「見ていいですか?」と聞くと、船長が
「どうぞ、いいですよ。世界一級の双眼鏡です」と言った。
す、すごい。

 覗いてみると恐ろしい倍率で目がくらんだ。画面を揺らさず固定して見るにはそれなりの腕力が必要だった。東郷平八郎の気分に浸りたかったが、そうはいかなかった。苦笑しながら諦めると、船長が「重いでしょう」と笑った。

 やがて陽が落ちて、前方にどうやら三浦半島が見えてきた。点々と灯りがともり始め、横須賀あたりの明るさが目を引いた。まもなく、暗い三浦半島の突端が見え、狭い海峡(こんなに狭いのか??と驚く。10kmだそうだ)を挟んで、対面に房総半島の陰が暗く見えた。この狭い海峡が、東京湾の出口(浦賀水道)である。確かに地理的に恵まれている、江戸湾に来航したペリーが浦賀に錨を降ろしたのは正しい判断だっただろう。江戸幕府を比較的過大評価したに違いない。

 さ、この浦賀水道を出れば本格的に外海である。実はいよいよ本当の「地獄」が待っていた。停泊船に埋め尽くされた穏やかな東京湾も、三浦半島の灯の美しさも、すべて過去の異世界のこととなってゆくのだった。

つ・づ・く